東京地方裁判所平成28年3月31日判決(判例タイムズ1438号164頁)
本件は、原告である芸能プロダクションと被告である歌手とのマネジメント専属契約が労働基準法の適用を受ける労働契約であるか否かが問題となった事案である。
東京地方裁判所は、以下のとおり、判示した。
被告は原告を通じてのみ芸能活動をすることができ、その活動は原告の指示命令の下に行うものであって、芸能活動に基づく権利や対価は全て原告に帰属する旨の本件契約の内容や、実際に被告が原告の指示命令の下において、時間的にも一定の拘束を受けながら、歌唱、演奏の労務を提供していたことに照らせば、本件契約は、被告が原告に対して音楽活動という労務を提供し、原告から対価を得ていたものであり、労働契約に当たるというべきである。
本件契約の契約期間は2年間であり、被告が労働基準法14条1項各号に規定する労働者に当たらないことは明らかであるから、本件契約には労働基準法附則137条が適用され、労働者である被告は、当該労働契約の期間の初日である平成26年4月1日から1年を経過した日以後においては、使用者である原告に申し出ることにより、いつでも退職することができる。そうだとすると、被告は、平成27年3月22日頃、原告に対し、本件契約について同月31日をもって終了させる旨の意思表示をしているから、被告は、同月31日をもって原告を退職し、本件契約は終了したというべきである。
この点、原告は、各種出演業務について、事前に被告の承諾を求めており、原告が被告にイベント出演を強制したことはないと主張する。しかし、被告が提供する業務が歌唱、演奏業務であることからすると、原告が被告に対して予め出演業務についての打診をすることは業務の円滑な遂行のために必要な行為であって、実際には被告が原告の依頼を断ることなく出演していたことからすると、各当事者の認識や本件契約の実際の運用においては、被告は原告の提案に応ずべき関係にあり、諾否の自由はなかったものとみるのが相当である。したがって、原告が事前に被告の承諾を求めていたことをもって労働契約としての性質が否定されるとはいえない。
また、原告は、本件契約に基づく報酬は、定額ではなく、物品の販売や各種出演業務の履行といった被告の芸能活動に基づいて支払の有無や金額が決められており、原告が顧客から支払われた対価を再配分するものであったから、被告の労務提供の対価としての性質はない、原告は被告の業務の遂行から生じる全ての権利を取得しているが、これはマネジメント契約の一環として原告が被告のために各種料金の回収と管理を一括して請け負うことにしたものであり、被告の立場に従属性はないと主張する。しかし、被告に対する報酬が活動ごとに一定の割合により算出されて支払われていたことからすると、被告が得ていた報酬は、演奏等によってもたらされる芸術的価値を評価したものというよりは、歌唱、演奏という労務の提供それ自体の対価であるとみるのが相当である。原告は対価を全て原告に帰属させた上で、被告との間で合意した一定の基準に基づいて報酬金額を算出しており、被告の立場に従属性がないということはできない。