東京高等裁判所平成28年9月7日決定(判例タイムズ1432号85頁)
本件は、学校法人が私立大学准教授に対し、告訴事実が存在しないにもかかわらず大学学長等を刑事告訴したとして、懲戒解雇したのに対し、准教授が学校法人に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める旨の仮処分を申し立てた事案である。
東京高裁は、懲戒解雇は重きに失し、相当性を欠き、懲戒権の濫用として無効であり(「抗告人は、本件告訴に係る告訴事実について不起訴処分となった後に速やかに相手方に対する懲戒処分の手続に着手しておらず、むしろ、相手方の公益通報によって、抗告人の補助金受給に問題があることが明らかになり、これが新聞報道された後に、懲戒処分の手続に着手し、本件懲戒解雇を行ったものであって、本件懲戒解雇が相手方の公益通報に対する報復であるとまでは認定することができないものの、上記の経過事実に照らせば、その可能性を否定することができない。また、本件告訴に係る告訴事実は不起訴処分にな ったものの、本件告訴がマスコミも含め、外部に漏れたとは認められず、本件告訴によって抗告人の社会的評価が大きく棄損されたとはいえない。さらに、相手方において、本来の職務である授業及び研究において、その適格性を疑わせるような事実が認められないことを考慮するならば、組織秩序維持の観点からみて、本件告訴に関しての相手方の非違行為に対する懲戒処分としては、本件懲戒解雇より緩やかな停職等の処分を選択した上で、相手方に対し、教職員としてとるべき行動について指導することも十分に可能であったということができる。以上のような事情を考慮すると、本件懲戒解雇は重きに失すると言わざるを得ない。」「したがって、本件懲戒解雇は、懲戒事由該当性があるものの、相当性を欠くから、懲戒権を濫用したものとして、労働契約法15条により無効である」)、准教授は学校法人の雇用契約上の地位を有していると判断した。