京都地方裁判所平成29年5月29日判決(判例タイムズ1464号162頁)
本件では、従業員が、早期退職応募制度に応募したため、会社は平成26年9月10日、2年間の競業避止義務付きで、2.43年分の早期退職加算をして同月30日での退職に合意したところ、従業員は同月26日には競業他社の採用決定を受け、同年10月1日には働き始めた。
そこで、会社側は、主位的には、上記合意をした時点でこれを従業員にこれを遵守する意思はなかったとして、詐欺による不法行為責任を追及し、予備的に、上記特約違反に基づく債務不履行責任を追及した。
裁判所は、退職合意書提出後、再就職が決まった時点での不法行為責任を認めた。
まず、競業避止特約が職業選択の自由に対する重大な制約であることから、「有効性を判断するに当たっては、①競業制限理由の合理性、②制限の期間や範囲(地域・職種)の程度、③代償措置の有無及びその内容、④背信性の程度」の総合考慮をようするとし、本件では各要素を充足するから、特約自体は有効とした。
そのうえで、再就職のための行動の時期に照らして、9月10日の時点での競業避止特約を遵守する意思が無かったとまでは判断できないが、退職合意書を提出した後の時点からは、会社に対し、再就職について「信義則上、当該事情を告知する義務もしくは当該事情を告げて不測の損害を与えないよう配慮すべき注意義務」があるから、それに反する従業員の行為は、早期割増退職金を詐取したものとして不法行為が成立するとした。
そして、上記の「不法行為がなければ、原告は本件割増対処育金を支払わなかったと認められる」から、その「全額が、被告の上記不法行為と相当因果関係のある損害というべきである」とした。