最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例58: セクハラ・アカハラによる降格処分

東京高等裁判所令和元年6月26日判決(判例タイムズ1467号54頁)

 

本件は、私立大学教授であった原告が、女子学生にハラスメント行為をしたことを理由に、5年間の准教授への降格処分を受けたことに対し、事実誤認や評価の誤りを主張して、教授としての地位確認とその間の差額賃金を求めた事案である。

 

第一審は、理由となったハラスメントの一部のみを認定しつつも、それだけでも処分は妥当として全部棄却したため、原告が控訴。

 

 控訴審は、第一審が認定しなかった事実も認定して、控訴を棄却した。

 

 まず、第一審も認定した女子学生への「故意による…身体への接触行為」を認定した。ただし、詳細な認定は、第一審後に本行為を含む控訴人の行為に対する懲戒解雇が行われ、それを争う提訴が別途なされたため、回避している。

 

 次に、第一審がハラスメントとは認定しなかった、上記接触行為の翌日以降に女子学生に行われた、食事への誘いや複数回のメール送信行為については、以下のように述べてハラスメントに該当すると述べた。

 

 まず、本件の大学が定めたハラスメント規程について、セクハラ及びアカハラの双方に関する条項を解釈するにあたり、いずれの行為も客観的に認定すべきとの定め方をしており、その行為がセクハラ・アカハラに該当するかについて「行為者が意図したこと又はこの点について行為者に過失があることは不要であること」を認定した。

 

 なお、こうした故意・過失は「主に、懲戒処分をするかどうか、処分をする場合にどのような処分をするかに関して裁量権の逸脱・濫用があるかどうかを判断する場合に、考慮されるにとどまる」とする。

 

 そのうえで、セクハラの観点からは次のような認定をする。

 

すなわち、食事への誘いについては、上記接触行為から「1週間余りしか経過していない時期に、2人きりで食事に誘うものであって…(女子学生は)…性的危険にさらされる状態の継続を危惧するなどの強い性的不快感を受けている」こと、

 

メール送信行為については、上記接触行為により控訴人から「著しい性的不快感を与えられた直後の時期に、必要もなく何回も…メールでの接触を余儀なくさせるものであって…性的不快感を受けている」こと、そして、これらの感情の原因が控訴人の「性的言動にあるから」セクハラに該当するとした。

 

 次に、アカハラの観点からは次のような認定をする。

 

 すなわち、食事への誘いについては、「授業担当教官である…(控訴人)…から性的危険にさらされる状態の継続を…危惧させて…大学院での修学環境を著しく汚染し、修学等を困難にしている」こと、メール送信行為については、「メールによる接触回数を無用に増やすことにより…嫌忌する気持ちを…生じさせ…大学院での修学環境を汚染し、修学等を困難にしている」こと、そして、これらの状況の原因が控訴人の「授業担当という優越的な地位を利用」した言動にあるから、アカハラに該当するとした。

 

 以上を踏まえて、新たに認定したこれら行為も踏まえると、「軽微なセクシャル・ハラスメントやアカデミック・ハラスメントと評価することはでき」ず、控訴人の「意図・動機…を総合考慮すると…懲戒事由に該当する」と認定し、また、「本件処分は、客観的に合理的理由があり、社会通念上も相当であって…(大学側に)…裁量権の逸脱や濫用があるとはいえない」とした。