最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例66: 救済命令に関する訴えの利益

東京地方裁判所平成30年2月26判決(判例タイムズ1469号210頁)

 

 本件は、原告会社に所属する労働者についての工事現場におけるトラブルについて、組合が同トラブルに関する安全配慮義務について団体交渉を申し入れたのに原告が交渉拒否したことに対して、大阪府労委が団交応諾と団交拒否を認める文書手交の救済命令を発したため、原告が不服を申し立てたものの、中労委が棄却した(本件命令)ため、国を被告として、本件命令の取り消しを求めた事案である。

 

同訴訟では、①本件命令後の事情変更により訴えの利益が消滅したのではないか、②本件命令前に労働者が組合員資格を喪失したことで本件命令の救済の利益が掃滅したのではないか、が特に争われた。

 

裁判所は、以下の様に述べて、①について訴えの利益を否定するとともに、②については救済の利益を肯定して、訴えを一部却下、一部棄却した。

 

 まず、①のうち団交応諾命令については、「本件命令が発令された後に、本件出来事に係る原告の安全配慮義務を否定…した…判決が確定したというのであるから…既判力を持って法的な解決がされたと評価するほかない。そうすると、本件団交応諾命令がいう本件出来事における原告の安全配慮義務とその責任については…団体交渉によって解決することが相当な事項ということができず」、「現時において、本件団交応諾命令は、その拘束力を失っており…法律上の利益が存しないとうことになる。」

 

他方、①のうち文書手交命令については、原告も組合も「それぞれ、現在も…存続しているものである。…そうすると、現時において原告から雇用される被告補助参加人の組合員がおらず」、また、安全配慮義務違反を理由とする「本件損害賠償請求訴訟判決が確定したとしても、被告補助参加人が今後に原告から雇用された労働者をその組合員として獲得する可能性が全く存在しないということはできないし、その獲得に伴い、原告と被告補助参加人との間の集団的労働労使関係が生じ、その正常な回復、確保を図ることが可能となる場合もあり得るものと考えられる」から、この部分については「訴えの利益を欠いているということはできない」とした。

 

 次に、②については、本件労働者の「個人的な権利利益の回復を目的とするものではなく、専ら原告が本件団交申入れに応じなかったことによって生じた…組合活動一般に対する侵害の除去、予防を目的とするものと解される」から、労働者が「事後的に…組合員たる資格を喪失したとしても」、組合が「これを求めることに影響を及ぼすものではない」とした。