最高裁判所令和元年8月9日判決(判例タイムズ1474号5頁)
「被上告人は、平成27年11月11日、本件債務名義、上記承継執行文の謄本等の送達(以下「本件送達」という。)を受けた。被上告人は、本件送達により、BがAの相続人であり、被上告人がBからAの相続人としての地位を承継していた事実を知った。」「再転相続人である丙は、自己のために乙からの相続が開始したことを知ったからといって、当然に乙が甲の相続人であったことを知り得るわけではない。また、丙は、乙からの相続により、甲からの相続について承認又は放棄を選択し得る乙の地位を承継してはいるものの、丙自身において、乙が甲の相続人であったことを知らなければ、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできない。丙が、乙から甲の相続人としての地位を承継したことを知らないにもかかわらず、丙のために乙からの相続が開始したことを知ったことをもって、甲からの相続に係る熟慮期間が起算されるとすることは、丙に対し、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障する民法916条の趣旨に反する。以上によれば、民法916条にいう『その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時』とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。なお、甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点について、乙において自己が甲の相続人であることを知っていたか否かにかかわらず民法916条が適用されることは、」「明らかである。」