熊本地方裁判所令和6年1月19日判決
「国賠法1条1項は、公務員が、その職務を行うについて加害行為を行った場合についての責任を定めるところ、同条項にいう加害行為は、職務行為自体である場合のほか、職務遂行の手段としてなされた場合や、職務の内容と密接に関連し、職務行為に付随してなされる行為も含まれ、客観的、外形的にみて、加害公務員の行為が社会通念上職務の範囲に属すると見られる場合を含むと解される(最高裁昭和31年11月30日判決)」
「「その事業の執行について」(民法715条1項)の意義は、「職務を行うについて」(国賠法1条1項)の上記意義と同様であると解される」
「本件行為〔 〕は、」「就寝していた原告に対し、大声で「わっ」と言って驚かせたというものである。原告と被告Dは、階級上の上下関係にあるものの、本件行為〔 〕の前後に陸上自衛隊の職務と密接に関連のある指導をしたなどの事情はないから、客観的、外形的に見て、社会通念上職務の範囲に属するとはいえず、「職務を行うについて」には当たらない。」
「本件行為〔 〕は、」「被告Dが、原告に対し、見だしなみに関する指導を行う際、暴行に及んだというものであり、上記のとおり、被告Dが、下級者である原告に対し、営内生活における指導を行うことが容認されており、自衛隊員は、見出しなみに注意しなければならないとされていること(・・・)に照らすと、外形的、客観的に見て、社会通念上職務に属する職務の範囲に属する行為であり、「職務を行うについて」に当たると認められる。」
「本件行為〔 〕は、「職務を行うについて」に当たる。そして、認定事実によれば、上記(各)行為が、国賠法1条1項のその余の要件を満たすことは明らかであるから、被告国は、上記行為について、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う。」
「被告国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設若しくは器具等の設置管理又は公務員が被告国若しくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理に当たって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っている(最高裁昭和50年2月25日)。上記義務は、被告国が公務遂行に当たって支配管理する人的及び物的環境から生じ得る危険の防止について信義則上負担するものであると解される。」
「本件行為〔 〕については、被告国が国賠法1条1項に基づく責任を負わないため、安全配慮義務違反に基づく責任の有無を判断する必要があるところ、その前提として、被告国が本件行為〔 〕について予見可能性を有していたかを検討する。」
「被告Gは、上記安全配慮義務の履行補助者に当たる」
「本件行為〔 〕を予見することは困難であり、予見可能性があったとはいえないから、そもそも安全配慮義務を観念することができない」
「本件行為〔 〕は、上記安全配慮義務の履行補助者である被告Gが関与した行為であり、」「被告国の予見可能性は否定されず、安全配慮義務違反を観念し得る。」
「このような稚拙な行為を行わざるべき義務は、被告国又はその履行補助者である自衛官としてその地位に基づき負うものではなく、むしろ、一般人が通常遵守すべき行為規範に属するものである。そして、上記のとおり、本件行為〔 〕の前後に、営内生活に関連する指導がされたとの事情は見当たらないことも考慮すると、被告国の履行補助者である被告Gにおいて本件行為〔 〕を防止する義務は、被告国が負うべき安全配慮義務とは内容を異にしているといえる。したがって、本件行為〔 〕について、被告国に安全配慮義務違反があったとは認められない。」
「公権力の行使に当たる国の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって、公務員個人は責任を負わないものと解される(最高裁昭和53年10月20日判決)」