中学校の部活動での部員間いじめへの対応につきまして、最高裁 令和2年7月6日判決を動画で解説いたします。真ん中の矢印ボタンを押してご視聴ください。※音声が流れますのでご注意ください。
最高裁判所令和2年7月6日判決(判例タイムズ1480号123頁)
本件は、中学校教諭で柔道部の顧問であった被上告人が、県教育委員会より、①部員間の暴力を伴ういじめの事実を把握しながら、受傷した被害生徒に対し、自招行為による旨の虚偽の説明を指示等したこと、②校長が、被上告人に対し、いじめ加害者が大会に出場しないよう指示したにもかかわらず出場させたこと、③校長が、被上告人に対し、部で使用するとして設置していた物品の撤去を指示したにもかかわらず、指示期間内に撤去しなかったこと、を理由として停職6ヶ月の処分を受けたことについて、処分取り消しと国家賠償を求め、上告人である県を訴えた事案である。控訴審は請求を認めたため、県が上告したところ、最高裁は以下のように述べて、教諭の訴えを全部棄却した。
裁判所は、懲戒の判断は「それが社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に違法となる」としたうえで、まず、①について、「被上告人の言動は、柔道部が大会を目前に控えている状況の下、その活動に支障を生じさせないため、主力選手らによる不祥事が明るみに出ることを免れようとする意図をうかがわせ…(被害生徒や副顧問教諭)…には…これに沿った行動をとるよう命ずるものと受け取られるものである。このことは…いじめを受けている生徒の心配や不安、苦痛を取り除くことを最優先として適切かつ迅速に対処するとともに、問題の解決に向けて学校全体で組織的に対応することを求めるいじめ防止基本方針等に反する重大な非違行為であるといわざるを得ない。さらに…被上告人の言動は、医師に実際の受傷経緯が伝えられることを妨げ、誤った診断や不適切な治療が行われるおそれを生じさせるものであった」として、「本件非違行為…は、いじめの事実を認識した公立学校の教職員の対応として、法令等に明らかに反する上、その職の信用を著しく失墜させるものというべきであるから、厳しい非難は免れない」とする。
次に、②については、「(加害生徒の)行為は重大な非行であり、そのような行為に及んだ…(加害生徒)…について、教育的見地から…対外試合に出場することを禁止することは、社会通念に照らしても相当であ(…る)。したがって、…校長が…(加害生徒)…を…大会に出場させないよう被上告人に命じたことは、職務命令として正当であったというべきであり、これに従わず…出場させた…非違行為…は、本件傷害事件等の重大性を踏まえた適切な対応をとることなく、校長による職務命令に反してまで柔道部の活動や加害生徒…の利益等を優先させたものであって、その非違の程度は軽視できない」とする。
さらに、③については、「柔道部が優秀な成績を挙げるために、学校施設の管理に関する規律や校長の度重なる指示に反したものであり…生徒の規範意識や公正な判断力等を育むべき立場にある公立学校の教職員にふさわしくない行為として看過し難い」とした。
そのうえで、「前記のような一連の各非違行為の程度等を踏まえると、被上告人に対する処分について、県教委が停職6月という量定を選択したことが、社会通念上著しく妥当を欠くものであるとまではいえず、県教委の判断が、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない」とした。