東京地方裁判所平成27年10月30日判決(ジュリスト1505号226頁)
本件は、会社が新たに導入した職務等級制度における降級に伴って月額基本給を減額された労働者が、会社に対して降級前との賃金差額等の請求をした事案である。
東京地裁は、まず、新制度の下では、担当職務に変更が加わればこれに対応してグレード・基本給にも変更が生じることについて、当然に予定されたものであり、また、就業規則・給与規則においても具体的に明らかにされ、加えて、社員に対する周知の措置が講じられることから、会社と社員との労働契約の内容を成していたものと認めることができるとした。
その上で、担当職務の変更に伴う給与規則規定のグレードの変更については、担当職務の変更と一体のものとして、業務上の必要性の有無、不当な動機・目的の有無、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益の有無等について検討し、人事権の濫用となるかどうかという観点からその効力を検討するのが相当であるとした。
担当職務の変更を命じた本件の人事発令は、業務上の必要性があり、人事上の裁量権の範囲の逸脱を基礎づけるような不当な動機・目的があるとも言い難いとした。年収が5パーセントほど減収となった点については、減収幅は少額とは言えないが、職務内容・職責に変更が生じていることも勘案すれば、このような減収の不利益をもって通常甘受すべき程度を超えているとみることはできないとした。最終的には、減収を伴う担当職務の変更を命じた人事発令は人事権の濫用とはならないとして、請求を棄却した。