最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例31:従業員の自殺と会社の責任

名古屋高等裁判所平成29年11月30日判決(判タ1449号106頁)

 本件は、女性従業員(以下、Aという。平成21年4月入社)が複数の先輩女性従業員(以下、B1、B2という。)から長年にわたりパワハラを受けたが、会社がこれを放置し、また、配置転換等によりAに加重な業務を担当させた結果、Aが強い心理的負荷を受けてうつ状態に陥り、平成24年6月21日に自殺するに至ったことを理由に、Aの相続人である両親が、会社、B1及びB2に対して、損害賠償を求めた事案である。

 名古屋高等裁判所は、以下のように判示して、会社の不法行為と自殺との間に相当因果関係が認められると判示した。

 Aの業務の実情に鑑みると、Aは平成24年5月中には業務遂行上の支援を必要とする状況にあったといえるから、会社としては、Aの業務内容や業務分配の見直し等を検討し、必要な対応をとるべき義務があったというべきである。

 しかし、会社は、B2からAのミスが少し多い旨の報告を受けるにとどまり、それ以上、Aの業務の実情の把握に努めたことはうかがえない。会社は、タイムカードや従業員らからの事情聴取により、Aの支援を必要とする状況にあるということを認識することは十分可能であったから、会社がこれを怠ったことは、上記義務違反に該当する。

 B1及びB2から注意・叱責を受け、かつ、会社が、B1及びB2の注意・叱責を制止ないし改善を求めず、Aの業務内容や業務分配の見直しを検討しなかったことにより、Aが受けた心理的負担の程度は、上記各心理的負荷の程度やこれらの違法行為が密接に関連するものであることも考慮すると全体として大きなものであったと認めるのが相当である(認定基準に当てはめると「強」に相当すると認められる。)。

 したがって、会社の不法行為によるAの心理的負担は、社会通念上、客観的に見てうつ病という精神障害を発症させる程度に過重なものであったと評価することができ、また、会社の不法行為とAの自殺との間には、相当因果関係があると認めるのが相当である。