最高裁判所平成31年4月25日判決(判例タイムズ1461号17頁)
本件では、まず会社の生コン運送部門の従業員が、会社の経営悪化に対応して、組合が会社に対して、給与の一部支払い猶予を内容とする労働協約を締結されていたさ中に退職したため、猶予にかかる未払い賃金の支払いを求めて提訴していた。ところが、その後会社は、生コン運搬部門を閉鎖することとし、組合との間でそれまでに組合員に生じていた猶予にかかる未払い賃金を放棄する合意をした。そこで、控訴審はこの合意に基づき元従業員の請求を棄却したため、元従業員が上告。
最高裁は、以下のように述べて、放棄合意の効力を否定した。「本件合意により上告人の賃金債権が放棄されたというためには、本件合意の効果が上告人に帰属することを基礎付ける事情を要する」ところ、本件では組合が「上告人を代理して具体的に発生した賃金債権を放棄する旨の本件合意をしたなど」の前記の基礎付ける事情は存在しない。その上で、放棄の効力が生じないとすると、労働協約による支払い猶予は、会社の生コン運送「部門が閉鎖された以上、その経営を改善するために同部門に勤務していた従業員の賃金の支払いを猶予する理由は失われたのであるから、」閉鎖された時点から、未払い賃金につき弁済期が到来するものとした。