信託法の条文ポイント

第16条(信託財産の範囲)


信託行為において信託財産に属すべきものと定められた財産のほか、次に掲げる財産は、信託財産に属する。

(1) 信託財産に属する財産の管理、処分、滅失、損傷その他の事由により受託者が得た財産 

(2) 次条、第18条、第19条・・・の規定により信託財産に属することとなった財産(・・・)

(ポイント解説)
 本条は、基本的には、旧14条を維持している。旧14条は、信託財産が他の財産に形を変えても、その新たな財産が信託財産を構成するという信託財産の物上代位性を規定したものと解されていたが、本条は、代位財産とは必ずしもいえないもの(例 信託財産に属する財産を売却する契約をした場合に受託者が取得する売買代金債権や信託財産に属する金銭をもって購入した財産など)についても信託財産に属する財産であることを明らかにした。

 受託者が、自己のためにする意思をもって、信託財産を用いて取得した利益の帰趨が問題となる。例えば、一定期間更地で管理するとされている土地を、駐車場として貸し出して、賃料を得た場合に、当該賃料が信託財産となるかという問題である。権限外の行為であっても、信託のためにする意思をもって行っている場合には、賃料は信託財産となる。これに対して、自己のためにする意思をもって行っている場合には、他人物賃貸―個人としての受託者が信託財産たる土地を賃貸する―と同様な状況となるが、この場合も、賃料は、16条1号の「信託財産に属する財産の管理」「により受託者が得た財産」として、信託財産を構成することとなる。その意味で、16条は、一定の場合には、忠実義務違反による利益吐き出しと同様な機能を有することになる。これに対して、例えば、受託者が、更地ではなく、機械式駐車場にして賃貸した場合は、受託者固有の事務によるものも含まれている。この場合には、受託者固有の事務が忠実義務違反となり、それについて、受託者がてん補義務を負うことになるかもしれないことは格別、賃料全額が信託財産になるわけではない。