1 この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。
2 この法律において「信託行為」とは、次の各号に掲げる信託の区分に応じ、当該各号に定めるものをいう。
(1)次条第1号に掲げる方法による信託 同号の信託契約
(2)次条第2号に掲げる方法による信託 同号の遺言
(3)次条第3号に掲げる方法による信託 同号の書面又は電磁的記録(同号に規定する電磁的記録をいう。)によってする意思表示
3 この法律において「信託財産」とは、受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産をいう。
4 この法律において「委託者」とは、次条各号に掲げる方法により信託をする者をいう。
5 この法律において「受託者」とは、信託行為の定めに従い、信託財産に属する財産の管理又は処分その他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者をいう。
6 この法律において「受益者」とは、受益権を有する者をいう。
7 この法律において「受益権」とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対して負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)及びこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいう
8 この法律において「固有財産」とは、受託者に属する財産であって、信託財産に属する財産でない一切の財産をいう。
9 この法律において「信託財産責任負担債務」とは、受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務をいう。
10 この法律において「信託の併合」とは、受託者を同一にする2以上の信託の信託財産の全部を1の新たな信託の信託財産とすることをいう。
11 この法律において「吸収信託分割」とは、ある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする他の信託の信託財産として移転することをいい、「新規信託分割」とは、ある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする新たな信託の信託財産として移転することをいい、「信託の分割」とは、吸収信託分割又は新規信託分割をいう。
12 この法律において「限定責任信託」とは、受託者が当該信託のすべての信託財産責任負担債務について信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う信託をいう。
ポイント解説:信託銀行の実務で、遺言書の保管や遺言の執行業務を「遺言信託」と呼ぶことがあるが、これは実務上のネーミングであり、法的には信託ではない。
信託宣言によって設定される信託につき、信託法本体は「自己信託」という言葉を用いていないが、同法附則2項の見出し、信託業法50条の2には、「自己信託」という用語 例がある。
公益信託とは、受益者の定めのない信託であり、学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益を目的とするもので、主務官庁の許可を受けたものをいう(公益信託二関スル法律2条)。その他の信託が私益信託である。
自益信託とは、委託者と受益者が同一者である信託であり、他益信託とは、委託者と受益者が異なる者である信託である。
1項の「特定の者」は受託者を指す。
信託においては、「一定の目的」が定められなくてはならない。目的は、受託者の行為基準といえる。例えば、株式投資信託契約書には、受託者が、いかなる方法によって投資先を決定し、いかなる方法によって受益者にそれを交付するかが定められているが、この
投資方法や受益者への交付方法の定めが信託の目的である。このように、信託の目的には、信託財産をどのように管理・運用するか、というだけではなく、受益者にどのように利益を与えるか、ということが含まれる。したがって、「元本は維持するが、その年に挙げた収益は、年末に受益者に金銭として給付する」とか、「月々20万円ずつ受益者に渡す」という取り決めも信託目的である。
信託の目的についても民法90条の制限がある。委託者が受益者に対して賭博による債務を負っており、それを返済する手段として、金銭を委託者から受託者に移転して信託を設定し、その金銭を株式に投資して、毎年の利益を受益者に現金で交付するという場合、信託目的には問題はないが、動機の不法の問題がある。動機の不法は、相手方がそれを知らない限り、法律行為の無効をもたらなさないが、信託の場合、相手方は受益者を指すと解される。
受働信託とは、受託者が信託財産を積極的に管理・処分しないものをいう。かつては、受働信託一般を無効とする学説もあったが、その後、①委託者や受益者の指示に従って受託者が管理・処分することになっている信託は、受託者に管理・処分権があるのだから、信託として有効であるが、②受益者が信託財産について各種の行為をすることを受託者が単に認容する義務を負うにとどまるものは、名義信託であり、信託としては無効であるとの見解が有力となった。
①については、受託者への財産移転の実体が、委託者のコントロールから離脱していると評価できるかを問題にすべきであり、その離脱があり、信託の実体がある限りで有効であるにすぎないと考えるべきとの批判がある。この批判の背景には、当該財産が信託財産として委託者の倒産から隔離されるという効果を正当に導くためには、当該財産が委託者から離脱している必要があるという考えがある。
信託の似た制度として間接代理がある。間接代理とは、間接代理人が自己の名をもって法律行為をしながら、その経済的効果だけを委託者に帰属させる制度である。他方、信託は、受託者が自分の名をもって法律行為をしながら、その利益を受益者に帰属させる制度である。間接代理においては、間接代理人の負う義務が比較的単純であるのに対し、信託においては、財産の継続的管理を行うが故に複雑であることを指摘する見解もあるが、特定の目的物を売却することだけを目的とする単純な信託も有り得る。この点では、匿名組合との関係も問題となる。匿名組合においても、匿名組合員の出資に基づいて営業者が営業を行い、その営業により生ずる利益が匿名組合員に分配されることになるが、このときは継続的管理が行われることになる。
間接代理あるいは匿名組合を、信託と明確に区別することは困難であり、連続的なものとして捉えざるをえない。
信託に似た制度として隠れた取立委任裏書と取立のためにする債権譲渡がある。隠れた取立委任裏書とは、手形上の権利行使の代理権を授与する目的で譲渡裏書をすることである。判例(最判昭和31年2月7日、最判昭和44年3月27日)は、信託裏書説を採用しているとされる。取立のためにする債権譲渡については、債権そのものは移転せず、単に取立権限のみが譲受人に与えられる場合と、債権そのものが移転する場合とがあり、後者につき、判例は信託的譲渡と呼ぶ(大判大15年7月20日)。学説上は、当事者の意思が不明な場合、原則として信託的譲渡と解すべきとするものが多い。
他にも、信託に似た制度として譲渡担保がある。譲渡担保には、目的たる財産権が外部関係においてのみ移転するものと内外部関係ともに移転するものとがあるが、前者であれば、信託財産の権利が受託者に絶対的に移転する信託とは異なるし、後者であるとしても、売渡担保において権利者が有する管理・処分権原は自己の債券担保のためのものであり、受益者のためにその権利を行使する信託とは異なるとし、譲渡担保は信託そのものではないとする見解が通説である。
もっとも、所有権者が他者の利益のために権利の制約を受けること、不当処分のおそれがあることなどは、信託と同様であり、譲渡担保の法律関係に信託法の規定のいくつかを類推適用するべきとの見解もある。
確かに、以前は、譲渡担保権者には目的物の完全な所有権が帰属することを前提とし、譲渡担保権者はその所有権を担保目的を超えて行使しないという拘束を受けるが、その拘束は債権的なものにとどまると解されていたために、設定者の保護のための手段として、信託法を類推適用することも有力な選択肢であった。
しかし、その後、判例・学説は、譲渡担保に関し、担保目的の範囲における所有権の移転という構成によって、法律関係を定めるに至っているのであり、もはや信託法の類推適用の必要性は減少しているといえる。