信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。
1 特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下「信託契約」という。)を締結する方法
2 特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法
3 特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の当該目的を達成するために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録(・・・)で当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載し又は記録したものによってする方法
ポイント解説:
信託においては、信託財産の存在を必須すべきでないとの見解もある。しかし、信託法は、信託財産が存在し、その「財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき」義務を受託者が負う場合のみ「信託」と呼称していること、そして、信託の本質を信託財産をめぐる物権的な効力の発生(信託は、所有者でない者に所有者と同様の物権的救済を認める法理であり、信託法の特徴は、財産を信託目的によって物権的に拘束する点にある)に求めると、信託においては、信託財産の存在を必須と考えるべきである。
「財産」には債務を含まないと解するのが通常である。旧法17条は、「信託財産に属せざる債務」という文言を用いており、文言からすると、信託財産に属する債務を認めるかのようにも解されたが、現行法は、「信託財産責任負担債務」という概念を用いており、新法は、債務を信託財産に含めていないと解される。仮に、信託財産責任負担債務を信託財産として考えると、74条は、受託者の死亡時に信託財産は法人とするとしているので、相続人はその債務を承継しないことになる。しかし、信託財産責任負担債務についても、債権者は必ずしも自らの有する債務が信託財産責任負担債務に係る債 権であることを知っているとは限らないのであり、やはり、債務を信託財産に含めるの は妥当ではない。信託設定時のみならず、設定後も債務が信託財産になることはないと考えるべきである。
なお、受託者による債務引受が信託設定時に行われることについて、信託法は禁止していない。
将来一定の期間に発生すべき債権(将来債権)を信託財産として信託を設定することは可能か。最判平成11年1月29日は、将来債権譲渡の効力を広く肯定しており、譲渡ができる以上、信託瀬亭も可能であるという見解が主張されている。もっとも、最判平成11年判決については、公序良俗違反以外の制約なしに広く将来債権の譲渡を認めるものと解することには疑問も呈されている。
議決権の信託については、以前、無効とする見解もあったが、現在では有効と解されている。実際、平成20年9月5日に中小企業庁から公表された「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会における中間整理」においては、議決権信託を用いた事業承継スキームが検討されている。
譲渡のできない財産に関連して、譲渡禁止・制限特約付債権が問題になる。自己信託以外では、信託法15条により、受託者が譲渡禁止・制限特約について善意であっても、民法466条2項但し書は適用されず、債権の移転が生ぜず、信託設定時に譲渡禁止・制限特約付債権を信託財産とすることはできない。これに対して、自己信託を設定するときには、譲渡がないので、有効に設定できると解する余地がある。具体的には、以下のとおりに場合を分けて考えるべきである。
まず、譲渡禁止・制限特約が「当該契約の利益を第三者が取得することを妨げることを企図する」という目的で付されている場合、当該債権から生じる利益を第三者である受益者に帰属せしめるスキーム、すなわち、自己信託の設定も禁止されると考えるべきである 。
次に、譲渡禁止・制限特約が、譲渡に伴う事務手続の煩雑さを回避し、また、過誤払いの危険を避けるということにある場合、信託宣言の方法によって自己信託が設定されるときには、債権者の変更は生じないのであるから、特約の目的に反することはなく、自己信託の設定は有効であると考えるべきである。